どんな事例?簡単に言うと・・
改正議論が進んでいる在職老齢年金。一定の基準額を超えると年金がカットされる仕組みですが、その基準額がどうなるのかが注目の的。2019年11月末までの議論の流れと改正後の年金額がどうなるかをシミュレーションしてみました。
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こんな事例を考えてみましょう
2019年8月に5年に一度の公的年金の財政検証があり、その結果を受けて秋から改正議論が盛んになっています。
その中でも、働く年金受給者にとって、もっとも関心の高いものはおそらく在職老齢年金(通称:在老)でしょう。
政府は高齢者の就業促進のためには、この在老を改める必要があるとの認識です。
そして、2019年11月末。
しばらく迷走していた改正議論の方向性が見えてきました。
猫野トラと妻のチャーミーがシモムーに相談に押しかけました。
今回の事例の何が問題なんでしょうか
厚生年金をもらいながら働く高齢者を対象にした年金減額の制度。
これが在職老齢年金(在老)。
この在老は受け取る給料と年金の合計が一定の基準額を超えると年金がカットされる仕組みです。
問題は「一定の基準額がいくら?」という点。
この基準が現行基準より上がれば年金の手取りが増えます。
これまでの議論で、62万円、51万円、47万円と数字が踊っています。
一定の基準額が今後いくらになるのか、そこが問題になります。
解説してみましょう
以前のコラムでもたびたび登場してきた在職老齢年金。
2018年のちょうど1年前にも在老改正の動きについてまとめたことがあります。
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財政検証前から議論が進んでいたんですね。
今回は、具体的に登場した数字をもとに改正後の姿がどうなりそうか、シミュレーションしてみたいと思います。
40秒でわかる在老の仕組み
在老による年金カットの仕組みは以下のとおり。
ボーナス込みの年収の1ヶ月分 + 年金月額 > 年金カット基準
という条件を満たすと、
年金月額 ー 年金カット基準を超えた分の半額
という仕組みです。
この「年金カット基準」は64歳までなら28万円、65歳以上は47万円(共に2019年度)と、年齢層により2つの基準になっています。
メモ
業界用語で、64歳までの在老を「低在老」、65歳からの在老を「高在老」とよびます。基準額は毎年度改定されます。
65歳以上の人の方が基準が緩いということがわかります。(ここまで38秒。個人差があります)
低在老も高在老もこの基準を引き上げようというのが今の議論です。
62万円、51万円、47万円はどこから出てきた?
議論の最初は62万円だった
財政検証のオプション試算の中で、仮に高在老の年金カット基準額を62万円に引き上げるとどうなるかという試算がされました。
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ここで出てきた62万円が、議論のたたき台としてスタート。2019年10月のことでした。
メモ
62万円は厚生年金に登録する月給の最高ランク。在老の仕組み自体を廃止するのではなく、年金カット基準を最大限緩める意図でこの数字が出たようです。
急に出てきた51万円
その後、2019年11月には51万円という基準が登場。
働く高齢者の年金減額、月収51万円超で 厚労省が新案
(2019年11月11日 日本経済新聞 電子版)
高所得者優遇という批判や、年金財政に悪影響が出て将来の年金水準が下がるという意見に配慮したためとのこと。
では51万円はどこから出てきた?
現役世代の平均的な賃金(約44万円)に年金の平均月額(報酬比例額 約7万円)の合計
だそうです。
ところがその2週間後・・・。
最後は振り出しに戻る47万円
結局は、現在の高在老の基準である47万円が登場。
登場と言うより、振り出しに戻っただけです。
高齢者の就業促進という改正の趣旨から考えると、基準引き上げは意味がないという判断のようです。
高在老があるから就業を控えているというデータは無く、改正しても多少対象者が増えるのが関の山。
実際、現行制度のままでも高在老の影響を受けているのは全受給者の1%だけです。
いえ、そんなことはありません。
現在28万円の基準となっている低在老(64歳までの人)も高在老と同じ基準額の47万円となりそうだから。
これは相当なインパクトを与えるはず。
そこで、低在老が28万円から47万円の基準額になった場合のシミュレーションをしてみましょう。
検証!低在老が47万円の基準になったら
前提条件を整理します。
- 「低在老」なので64歳までの年金受給者の話
- 在職老齢年金の停止対象は「老齢厚生年金の報酬比例部分」だけなので「年金月額 = 老齢厚生年金の報酬比例部分の1ヶ月分」
- 老齢厚生年金の報酬比例部分の平均月額は7万円。平均から前後数万円と、10万円〜20万円を列挙
- 会社からの給料はボーナス込みの年収の1ヶ月分(月給相当額)を20万円、30万円、40万円として計算
この前提条件をもとに、年金停止額を計算してみました。
月給相当額20万円の場合
年金月額 | 4万円 | 5万円 | 6万円 | 7万円 | 8万円 | 9万円 | 10万円 | 15万円 | 20万円 |
現行(28万円) | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | ▲0.5万円 | ▲1万円 | ▲3.5万円 | ▲6万円 |
改正(47万円) | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし |
月給相当額30万円の場合
年金月額 | 4万円 | 5万円 | 6万円 | 7万円 | 8万円 | 9万円 | 10万円 | 15万円 | 20万円 |
現行(28万円) | ▲3万円 | ▲3.5万円 | ▲4万円 | ▲4.5万円 | ▲5万円 | ▲5.5万円 | ▲6万円 | ▲8.5万円 | ▲11万円 |
改正(47万円) | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | ▲1.5万円 |
月給相当額40万円の場合
年金月額 | 4万円 | 5万円 | 6万円 | 7万円 | 8万円 | 9万円 | 10万円 | 15万円 | 20万円 |
現行(28万円) | 全額停止 | 全額停止 | 全額停止 | 全額停止 | 全額停止 | 全額停止 | 全額停止 | ▲13.5万円 | ▲16万円 |
改正(47万円) | 停止なし | 停止なし | 停止なし | 停止なし | ▲0.5万円 | ▲1万円 | ▲1.5万円 | ▲4万円 | ▲6.5万円 |
そうなんですね。
これまで一部カットされていた人が全額もらえるようになったり、全額停止されていた人が全額もらえるようになったり。
低在老の場合、働く年金受給者の半数以上が一部でもカットされているのが現状。
年金カット基準額が現行よりも20万円も上がれば64歳までの多くの方に年金増額のメリットが生じます。
これなら60歳台前半の人たちは年金の減額を気にすることが無いので、就労促進の効果は生じそうです。
今回の事例まとめ
今回は最新の在職老齢年金の改正議論をもとに、低在老のカット基準が引き上げられた場合のシミュレーションをしてみました。
ポイントは以下のとおり。
- 8月の財政検証結果を受けて10月から在職老齢年金改正議論が始まる
- 年金カット基準額がどの程度引き上げられるかが問題。62万円、51万円と数字が出たが47万円の基準で引き上げされる方向(11月末現在)
- 64歳までの低在老対象者にはメリット大。65歳からの高在老対象者はもともと47万円なので変化なし
ご自身でする手続きはありません。
自動的に基準額が変わるので、あとは制度が変わるのを待つばかりです。
早くて、2020年の通常国会で法案が提出されて、成立すれば恐らく2021年度(2021年4月)から施行という感じではないでしょうか。
ところで、
低在老の対象になる64歳までの年金受給者は今後どんどん減っていきます。
もらい始めの年齢が引き上げられている途中なので、将来的には誰ももらえなくなるからです。
メモ
男性は昭和36年4月2日以降生まれ、女性は昭和41年4月2日以降生まれの方は60歳台前半の年金自体がもらえません。
だから、厚労省も低在老については手をつけずにいたのだと思います(財政検証のオプション試算でも低在老に関しては試算がされていません)。
結局、この改正も振り返ってみれば、「昔そんなことあったよね」で終わりそうな気もします。
出典・参考にした情報源
厚労省資料
事例は実際の相談をヒントにしたフィクションです。記事中のアルファベットは実在の人物・企業名と関係ありません。記事は細心の注意を払って執筆していますが、執筆後の制度変更等により実際と異なる場合もあります。記載を信頼したことによって生じた損害等については一切責任は負えません。
シモムー
みんなのねんきん主任講師