どんなニュース?簡単に言うと
2021(令和 3)年 12 月から始まった『新年度の年金改正を深掘りするシリーズ』。
最終回の今回は、2022(令和4)年4月からのその他の改正事項として、「確定拠出年金の受給開始年齢の上限引き上げ」「年金手帳の廃止」「年金担保貸付制度の廃止」の 3 点を整理しましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
確定拠出年金の受給開始年齢の上限が 70 歳から 75 歳に
2022(令和4)年3月まで、確定拠出年金の老齢給付金の受け取り始めの年齢は、企業型確定拠出年金と iDeCo のいずれについても 70 歳が上限とされていました。
例えば、制度に加入していた期間(正確には「通算加入者等期間」といいます)が 10 年以上ある場合には、60 歳から 70 歳の間の任意の時点から老齢給付金を受け取ることが可能でした。
加入していた期間が 10 年よりも短い場合には、「61 歳から 70 歳の間の任意の時点から受給開始」「62 歳から 70 歳の間の任意の時点から受給開始」というように、もらい始める年齢の下限は変わるものの、70 歳という上限の年齢は変わりません。
これに対し、2022(令和4)年4月からは受給を始める年齢の上限が 75 歳に引き上げられ、60 歳から 75 歳の間の任意の時点から確定拠出年金を受け取ることが可能となっています。
つまり、受給開始を従来よりも最大で5年間、遅くできるようになったわけです。
2022(令和4)年3月までと同年4月からの制度を比較すると、次のとおりです。
なお、この制度改正の対象になるのは、2022(令和4)年4月1日以降に 70 歳になる人に限定されています。
具体的には、1952(昭和 27)年4月2日以降に生まれた人であれば、上限年齢は 75 歳とされます。
1952(昭和 27)年4月1日以前に生まれた人の場合には、改正法が施行された時点ですでに 70 歳に達しているため、上限年齢の引き上げの対象にはなりません。
ところで、今回の確定拠出年金の受給開始年齢の上限引き上げは、「公的年金の繰下げ受給の上限年齢引き上げ」に連動して行われています。
老後に受け取る公的年金である老齢基礎年金や老齢厚生年金は、原則として 65 歳から受け取り始めるものですが、希望すれば受け取り始めの年齢を 65 歳よりも遅くすることが可能です。
このような仕組みを繰下げ受給といい、2022(令和4)年3月までは、受け取り開始時期を 66 歳から 70 歳の間で任意に選択することが認められていました。
ところが、法改正によって 2022(令和4)年4月からは、老齢基礎年金や老齢厚生年金の繰下げ受給の上限年齢が 75 歳に引き上げられています。
従って、現在の繰下げ受給の制度では、66 歳から 75 歳の間で受け取り始めの年齢を自由に決めることが可能です。
この制度改正に合わせ、確定拠出年金の受給開始年齢も、最大で 75 歳まで選択できるように変更されたものです。
なお、老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げ受給の法改正については、本サイトの 2022(令和4)年1月 14 日付コラム『すかっち先生の年金なるほどゼミナール【第2回】2022 年「年金を早くもらう、遅くもらう仕組み」の改正まとめ』で詳しく解説していますので、こちらを参考にしてください。
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すかっち先生の年金なるほどゼミナール【第2回】 2022 年「年金を早くもらう、遅くもらう仕組み」の改正まとめ|みんなのねんきん
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今回の法改正で同時に行われた「確定拠出年金の受給開始年齢の上限引き上げ」と「公的年金の繰下げ受給の上限年齢引き上げ」とは、75 歳を年齢の上限とする点では共通しているものの、大きな相違点も存在します。
法改正を利用して年金のもらい始めを遅くした場合、老齢基礎年金・老齢厚生年金は金額が増額されますが、確定拠出年金は増額されるとは限らないことです。
老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げ受給には、受け取りを1カ月遅くするごとに年金額が 0.7%増えるというメリットがあります。
例えば、65 歳から受給するはずの老齢基礎年金や老齢厚生年金について、受け取り開始を75 歳まで遅らせれば、年金額は 84%(=0.7%×(75 歳-65 歳)×12 カ月)も増額されることになります。
しかしながら、確定拠出年金の場合には、60 歳から 75 歳の間の任意の時期から老齢給付金をもらえる人が、60 歳から受け取らずに 75 歳から受け取ったとしても年金が必ず増額されるとは限りません。
確定拠出年金は、運用成績に応じて受取額が変わる制度だからです。
この点は混同しやすいので、注意が必要でしょう。
ここがポイント! 確定拠出年金の受給開始年齢の上限が 75 歳に
2022 年4月から確定拠出年金の受給開始年齢の上限が、70 歳から 75 歳に引き上げられた。ただし、受け取り開始を遅らせても、年金が増額になるとは限らない。
「年金手帳」が廃止され「基礎年金番号通知書」へ
次は、年金手帳に関する制度改正です。
年金手帳とは、基礎年金番号(個人を識別する年金用の番号)を通知するために発行される小冊子です。
これまで年金手帳はオレンジ色や茶色など、さまざまな色で発行されてきており、1997(平成9)年1月からは青色の手帳が使用されています。
ところが、年金手帳の発行は 2022(令和4)年3月で終了となり、同年4月からは手帳の代わりに「基礎年金番号通知書」というカードが発行されることになりました。
年金手帳のこれまでの変遷を整理すると、おおよそ次のとおりです。
これまで、年金手帳は年金に関する個人情報などを表記できるよう、1960(昭和 35)年から冊子形式で発行されてきました。
しかしながら、現在では年金に関する個人情報はコンピューターで管理されているので、手帳に表記する必要性は高くありません。
また、従来、年金関係の手続きでは、手続き用紙に記入した基礎年金番号を確認するため、年金手帳の添付を求められることが少なくありませんでした。
ところが、現在では手続き用紙にマイナンバーを記入すれば基礎年金番号の記入は不要なので、年金手帳を添付する必要もありません。
このような環境変化を踏まえ 2022(令和4)年4月からは、冊子形式よりも簡易化された「基礎年金番号通知書」というカード形式の発行に切り替えられたものです。
そのため、2022(令和4)年4月以降に 20 歳になった人や、今春、高校を卒業して 2022(令和4)年4月から社会人になった人などには、従来の年金手帳に代わって「基礎年金番号通知書」が発行されることになります。
「基礎年金番号通知書」はクレジットカードと同じ大きさで、オモテ面に基礎年金番号、氏名、フリガナ、生年月日、交付年月日が印字されているようです。
ただし、これまでに発行された年金手帳が使えなくなるわけではありません。
発行済みの年金手帳は 2022(令和4)年4月以降も使用できますので、手元にある年金手帳はこれまでどおり大事に保管しておきましょう。
また、2022(令和4)年4月からは、年金手帳を紛失しても新しい手帳は再発行されません。
代わりに「基礎年金番号通知書」が発行されることになります。
その意味では、現在、手元にある年金手帳は、二度と手に入らない貴重な品と言えるかもしれませんね(笑)。
ところで、「基礎年金番号通知書」という名称の書面が発行されるのは、実は今回が初めてではありません。
例えば、共済組合に加入する公務員に対しては、従前より年金手帳の代わりに「基礎年金番号通知書」が発行されています。
また、基礎年金番号の制度が始まった 1997(平成 9)年には、多くの国民に本人の基礎年金番号をお知らせする「基礎年金番号通知書」という書面が、当時の社会保険庁から送付されています。
ここがポイント! 「年金手帳」が廃止され「基礎年金番号通知書」へ
2022 年4月からは冊子タイプの年金手帳に代わり、カードタイプの「基礎年金番号通知書」が発行されている。ただし、発行済みの年金手帳は今後も使用可能である。
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年金担保貸付制度は廃止へ
年金を担保にお金を借りることはできません。
これは、年金に関するルールを定めた国民年金法や厚生年金保険法という法律に、次のような規定があるためです。
国民年金法第 24 条前段
給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。
厚生年金保険法第 41 条第1項前段
保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。
※ 下線は筆者が加筆。
ところが、1965(昭和 40)年以降、民間の金融機関から融資を受けられない年金受給者が、高利貸し(非常に高い利率で融資を行う貸金業者)から年金証書を担保に借り入れを行ってしまい、生活が困窮する事例が社会問題化しました。
そこで、このようなトラブルを回避するため、年金受給権を担保に借り入れができる公的な融資制度が創設されました。
制度の名称は「年金担保貸付制度」といいます。
「年金担保貸付制度」は 1975(昭和 50)年にスタートし、その後、2003(平成 15)年からは独立行政法人福祉医療機構という団体によって実施されています。
ところで、「年金担保貸付制度」によって借り入れを行った場合、お金はどのように返済すると思いますか。
実は、年金受給者に支払われる年金から、返済額が自動的に天引きされる仕組みになっています。
年金受給者の銀行口座には、返済額を差し引いた残金だけが入金されます。
そのため、この貸付制度を利用している年金受給者は、返済が終了するまでは年金を全額受け取ることができません。
このように、本来であれば日々の生活費に充てられるべき年金が、なかば強制的に借入金の返済に回されることになるわけです。
その結果、貸付制度の利用者が困窮状態に陥ってしまうケースも少なくなかったため、「年金担保貸付制度」を廃止することが 2010(平成 22)年に閣議決定され、段階的に事業規模が縮小されることになりました。
その後、2020(令和2)年の法改正により、2022(令和4)年3月いっぱいで「年金担保貸付制度」の申込受付は終了しています
「年金担保貸付制度」の新規の受付が終了した現在では、年金の受給権を担保に金銭の貸付を行う行為は、例外なく全て違法行為となりました。
従って、今後、年金受給者が経済的な支援を必要とする場合には、「自立相談支援機関に相談をする」「社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度を利用する」など、年金を担保にする以外の方法をとらなければなりません。
なお、公務員であった人が利用できる同様の公的融資制度として、「恩給・共済年金担保融資」という制度があります
この制度は、公務員の共済年金などを担保に借り入れができる制度で、㈱日本政策金融公庫が実施していました。
しかしながら、公務員と民間企業の会社員との不平等を防止する観点から、2022(令和4)年3月いっぱいで「恩給・共済年金担保融資」の申込受付も終了しています。
ここがポイント! 年金担保貸付制度は廃止へ
年金の受給権を担保に借り入れができる「年金担保貸付制度」は、2022 年3月いっぱいで受付が終了された。今後、年金の受給権を担保とした金銭の貸付は、例外なく違法行為となる。
今回のニュースまとめ
今回は、『新年度の年金改正を深掘りするシリーズ』の最終回として、2022(令和4)年4月からのその他の改正事項である「確定拠出年金の受給開始年齢の上限引き上げ」「年金手帳の廃止」「年金担保貸付制度の廃止」の3点について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 2022 年4月から、確定拠出年金の受給開始年齢の上限が 75 歳に引き上げられた。
- 2022 年4月からは冊子タイプの年金手帳に代わり、カードタイプの「基礎年金番号通知書」が発行されている。
- 年金の受給権を担保に借り入れができる「年金担保貸付制度」は、2022 年3月いっぱいで受付が終了された。
2021(令和 3)年 12 月から始まった『新年度の年金改正を深掘りするシリーズ』は、5カ月間にわたり次のような構成でお送りしてきました。
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盛りだくさんの内容でしたが、いかがでしたでしょうか。
ぜひ、繰り返し目を通して、理解を深めてください。
出典・参考にした情報源
厚生労働省ホームページ:2020 年の制度改正
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2020kaisei.html#20220401
厚生労働省ホームページ:年金制度改正法(令和2年法律第 40 号)が成立しました
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html
厚生労働省ホームページ:年金担保貸付制度終了のご案内
大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師