どんなニュース?簡単に言うと
離婚に伴い、厚生年金の給料やボーナスの記録を分ける「離婚時の年金分割制度」。
これまで『制度の仕組み編』で基本的なルールを、『さまざまな事例編』で具体的な分割例を見てきました。
最終回の今回は、年金を分割する際の手続きの仕方を整理しましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
手続きをしないと記録は分割されない
離婚時の年金分割制度に関するコラムは『制度の仕組み編』(2023年11月29日付)、『さまざまな事例編(2023年12月27日付)』の掲載から1年近く経ってしまいました。
今回の『手続きの仕方編』が最終回になるのですが、だいぶ間が空きましたのではじめに前2回のコラムのポイントを振り返っておきましょう。
『制度の仕組み編』のポイント
- 離婚時の年金分割制度は、離婚に伴って「厚生年金の標準報酬月額・標準賞与額の記録」を分ける制度である。記録を “与える側” は年金額が減少し、記録を “受け取る側” は年金額が増加する。
- 「合意分割」とは分割対象となる期間の標準報酬の総額について、按分割合を当事者同士が合意する制度である。
- 「3号分割」とは一方が第3号被保険者の期間について、両者の合意なく標準報酬の総額の半分が分割される制度である。
- 年金記録の分割を受けたとしても、それによって年金額が劇的には増加しない。
『さまざまな事例編』のポイント
- 独身時代の年金記録は分割対象にならない。
- 3号分割は、制度開始時(2008年4月)以降の婚姻期間のみが対象とされる。
- 妻が “記録を相手に与える側” になることもある。
- 自分と相手との標準報酬月額の差額が大きいと、分割額は大きくなる。
- 分割請求は「離婚をした翌日から2年以内」に行うのが原則である。
- 公務員の共済年金加入期間も分割対象になる。
- 自営業者・フリーランサーは年金分割の影響を受けない。
- 結婚と離婚を繰り返すと、年金の減額が大きくなりやすい。
詳細はそれぞれのコラムを参照してください。
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誤解してない?離婚の前に考えたい「年金分割制度」のキホン ー制度の仕組み編ー|みんなのねんきん
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それでは、今回の本題である手続きの話に入りましょう。
残念ながら年金の記録は、離婚届を出せば自動的に分割されるわけではありません。
別途、年金分割専用の手続きが必要になります。
また、上記『さまざまな事例編』のポイント5にあるとおり、手続きには「離婚をした翌日から2年以内」という期限が決められています。
従って、期限内に何も手続きをしなければ年金記録はまったく分割されず、老後は自身の加入実績のみに応じた年金を受け取ることになります。
離婚時の年金分割制度について、手続きの流れを見ていきましょう。
大きな流れは、次のとおり3段階に分かれます。
- 年金記録を確認する。
- 分割の割合を決める。
- 分割を申し込む。
それぞれの段階にさまざまな注意点がありますので、しっかりと確認をしていきましょう。
ここがポイント!年金分割手続きの大きな流れ
年金の分割は「記録の確認」「分割割合の決定」「分割の請求」という3つの手続きを経て行われる。
1.年金記録を確認する
離婚時の年金分割制度では、婚姻期間中の標準報酬の総額をふたりで分け合うことになります。
ただし、以下のルールを守らなければなりません。
- 記録は標準報酬の総額の多い人から少ない人に分ける。
- 標準報酬の総額が少ない人のものになる記録は、最大でも2人の標準報酬の合計の半分までとする。
標準報酬の総額のうち、総額が少ない人の記録になる割合を按分(あんぶん)割合といいます。
そのため、年金分割を行うには、「標準報酬の総額はいくらか」「按分割合は何%から何%の間で決める必要があるか」などの情報が必要になります。
そこで、まずはこれらの情報を入手する作業から始めます。
具体的には、『年金分割のための情報提供請求書』(以下、『情報提供請求書』と略します)という書類に必要事項を記入し、年金事務所や共済組合に提出することになります。
『情報提供請求書』とは次のような書類です。
-
年金分割のための情報提供請求書|日本年金機構
www.nenkin.go.jp
年金事務所などで『情報提供請求書』の処理が行われると、後日、按分可能な割合の範囲などが記載された『年金分割のための情報通知書』(こちらは以下、『情報通知書』と略します)という書類が発行されます。
50歳以上の人や障害厚生年金をもらっている人が手続きをした場合には、希望をすれば記録分割後の年金の見込額も『情報通知書』に記載してもらうことが可能です。
この書類の情報を踏まえて、次の段階に進むことになるわけです。
そんなことはありません。
ふたりで提出することもできますし、どちらか一方がひとりで出すことも可能です。
離婚を検討している段階であっても『情報提供請求書』を出せば、『情報通知書』をもらうことが可能です。
ふたりで一緒に『情報提供請求書』を提出した場合には、『情報通知書』もそれぞれに対して発行されます。
ただし、どちらか一方がひとりで出した場合には、離婚後に出したのであれば『情報通知書』はそれぞれに発行されますが、離婚前の場合には手続きをした人のみに発行されることになっています。
離婚前の段階の人がひとりで『情報提供請求書』を出すケースでは、相手側がその事実を知らない可能性があります。
それにもかかわらず『情報通知書』をふたりに発行してしまっては、離婚を検討していることが相手にバレてしまうからです。
そのとおりです。
ここがポイント! 年金記録の確認方法
年金分割に関する情報は『年金分割のための情報提供請求書』を提出すると、『年金分割のための情報通知書』で提供される。
2.分割の割合を決める
次はいよいよふたりで分割割合を決めます。
入手した『情報通知書』には「按分割合の範囲」という項目があります。
ココに分割が可能な割合が「00%を超え、50%以下」などと記載されていますので、この範囲内で「何パーセントで按分するか」をふたりで話し合うわけです。
ただし、「妻は婚姻期間中にずっと専業主婦であり、国民年金の第3号被保険者に該当していた」などの場合には、分割割合をふたりで話し合う必要はありません。
3号分割に該当しますので、割合を話し合わなくても自動的に標準報酬の総額の半分が分割されることになります。
もちろん、話し合いで決着がつけばそれに越したことはありません。
しかしながら、「少しでも自分の年金を多くしたいっ!」と考えるのが人情です。
ましてや、離婚をしようと考えるくらいなのですから、「相手を思いやって自分の取り分を少なくする」などの対応が取られることは考えにくいかもしれません。
そこで、話し合っても分割割合が合意できなかった場合に備えて、もう一つの方法が用意されています。
分割の割合について家庭裁判所に申し立てるという方法です。
家裁に「調停」「審判」「離婚訴訟における附帯処分」の手続きを申し立てることにより、裁判所を介して分割割合を定めていくことになります。
「調停」とは、裁判所の仲介を得ながら本人同士で割合を決める仕組みです。
一方、「審判」の場合には、裁判官が分割割合を決定します。
また、「離婚訴訟における附帯処分」とは離婚の審理と合わせてさまざまな事項を裁判所に判断してもらう手続きで、子供の養育費や財産分与などに関する判断が行われたりするものです。
以上のように、当人同士の話し合いまたは家庭裁判所への申し立てのいずれかの方法により、分割割合を決定することになります。
ここがポイント! 分割割合の決定方法
年金記録の分割割合は、「当人同士の話し合い」「家庭裁判所への申し立て」のいずれかによって決定する。
3.分割を申し込む
自分たちで分割割合を決めただけでは、年金記録の分割はまだ行われません。
日本年金機構のコンピューターで管理されているふたりの年金記録について、分割割合に従って書き換える作業が残っています。
この作業を行うには、正式な申し込みが必要です。
そのため、分割割合を決めた後は、年金事務所などに「按分割合00%でふたりの記録を分割してほしい」と申し込むことになります。
具体的には、『標準報酬改定請求書(離婚時の年金分割の請求書)』(以下、『改定請求書』と略します)という書類に按分割合などの必要事項を記入して、年金事務所や共済組合に提出することになります。
『改定請求書』とは次のような書類です。
-
標準報酬改定請求書(離婚時の年金分割の請求書)
www.nenkin.go.jp
年金事務所などでは『改定請求書』に記載された按分割合に沿ってコンピューター上の記録の分割作業を行い、作業が終了すると『報酬改定通知書』という書類で当事者にお知らせをすることになっています。
なお、『改定請求書』を提出する際は、記載された按分割合が正しいことを証明しなければなりません。
そのため、原則として以下のような書類を添付する必要があります。
- ふたりで話し合って割合を決めた場合 … 公正証書の謄本若しくは抄録謄本、または公証人の認証を受けた私署証書
- 家庭裁判所に申し立てて割合を決めた場合 … 審判(判決)書の謄本または抄本及び確定証明書または調停(和解)調書の謄本または抄本
ただし、年金事務所などに分割を依頼する『改定請求書』による手続きは、原則として「離婚が成立した日」や「婚姻が取り消された日」の翌日から2年を経過すると、行えなくなります。
必ずしもそうとはいえないようです。
離婚時の年金分割は「分割割合を決定する手続き」にかなりの時間と労力を要します。
特例として「離婚から2年を経過するまでに家庭裁判所に申し立てを行っている場合には、2年を過ぎても条件付きで分割請求に応じる」などのこともありますが、早め早めに手続きを進めるのに越したことはないようです。
ココまで似たような名称の書類が複数、登場しましたので、少し整理をしておきましょう。
以下を参考にしてください。
ここがポイント! 記録分割の請求方法
年金記録を分割するには、原則として「離婚が成立した日」や「婚姻が取り消された日」の翌日から2年以内に『標準報酬改定請求書(離婚時の年金分割の請求書)』を提出しなければならない。
2022年度の年金分割は32,927件
最後に、最近の年金分割の状況を見てみましょう。
厚生労働省がまとめた『令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』という資料によると、2022(令和4)年度に年金分割が行われた件数は合計で32,927件です。
近年、分割件数は若干の増加基調にありましたが、2022(令和4)年度は前年度よりも1,208件減少しています。
また、同年度の年間離婚件数が180,583件ですので、32,927件という数値は年間離婚件数の約2割に当たります。
なお、年金分割の総数32,927件のうち3号分割だけが行われた件数は、約3分の1の11,034件。
残り3分の2の21,893件は、合意分割だけまたは合意分割と3号分割の両方が行われています。
近年の年金分割件数の推移を整理すると、次のとおりです。
分割によって年金受給権者の年金額がどのように変化したかを見ると、記録を相手に与える側(これを「第1号改定者」といいます)の場合は、分割前の年金額の平均が月に145,835円であるのに対して分割後は117,637円となり、約19%の28,198円減少しています。
1年間では1,750,020円(=145,835円×12カ月)の年金が1,411,644円(=117,637円×12カ月)に減ってしまうことになり、年金暮らしの人にとっては痛手となるでしょう。
一方、記録を相手からもらう側(これを「第2号改定者」といいます)は、分割前の年金額の平均が月に54,053円であるのに対して分割後は84,009円となり、約55%に当たる29,956円増加しています。
年間では648,636円(=54,053円×12カ月)の年金が100万円台に乗り、1,008,108円(=84,009円×12カ月)となります。
記録を相手からもらう側は年金が6割近くも増えるのですから、年金分割制度は嬉しい仕組みといえます。
しかしながら、離婚後は1人で暮らしていくことを考えると、月に3万円程度の年金増で十分な生活が可能とはいいがたいでしょう。
結局、離婚をせずに夫婦で月に199,888円(=145,835円+54,053円)の年金を受け取るほうが、経済的には安定するかもしれません。
ここがポイント! 2022年度の年金分割の状況
年金分割の総数は32,927件で、年間離婚件数の約2割に当たる分割が行われている。記録を相手に与える側(第1号改定者)は年金が19%減少し、記録を相手からもらう側(第2号改定者)は55%増加している。
今回のニュースまとめ
今回は「離婚時の年金分割制度」について、具体的な手続きの仕方を見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 年金の分割は「記録の確認」「分割割合の決定」「分割の請求」という流れで行われる。
- 『年金分割のための情報提供請求書』を提出すると、『年金分割のための情報通知書』で分割に必要な情報が提供される。
- 分割割合は「当人同士の話し合い」「家庭裁判所への申し立て」のいずれかで決定する。
- 原則として「離婚が成立した日」「婚姻が取り消された日」の翌日から2年以内に『標準報酬改定請求書(離婚時の年金分割の請求書)』を提出しなければ分割できない。
- 2022年度の分割総数は32,927件で、年間離婚件数の約2割に当たる分割が行われている。分割後の年金額は第1号改定者が19%減少するのに対し、第2号改定者は55%増加している。
本年(2024年)10月に実施された年金アドバイザー3級試験では、久しぶりに離婚時の年金分割制度に関する出題がありました。
問われたのは次の3点です。
- 合意分割では制度実施日前の婚姻期間も分割対象になること。
- 3号分割は平成20年4月から開始されたこと。
- 分割請求は2年以内にする必要があること。
これらの論点については、みんなのねんきんのコラム『誤解してない? 離婚の前に考えたい「年金分割制度」—さまざまな事例編—』で具体例を用いて解説しています。
今回出題された論点が、年金分割の実務でどのような影響を及ぼすのかが理解できると思いますので、ぜひ読んでみてください。
出典・参考にした情報源
-
日本年金機構ホームページ:離婚時の年金分割
www.nenkin.go.jp
-
厚生労働省ホームページ:令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
www.mhlw.go.jp
大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師